「書く」ということ


ごたくを並べる前に,まず結論を書きます.

木下是雄「理科系の作文技術」(中公新書624)

これを読みましょう.10回くらい読み返すとより吉.700円だかです.ふつうの本屋で容易に手に入ります.


提出されたレポートとかを読んでいると思うのですが,たいていの人が説明するということができていません.考察の内容がどうの,というのではなく,そもそも何がどうなっているのかの説明自体がちゃんとできていないのです.そして,「筋がない」.いきあたりばったり.しかも説明が不足ぎみ.これ最凶.いや,凶とまでは言いませんが.何を書くのか,その整理がつかないままに,締切の前夜になってあわてて書いているってことなんでしょうかね.自分の経験からしてそう想像してるんですが.

以下,受け売りですが...日本では小学校では作文をたくさん書かされます.最近の小学校事情は知りませんが,少なくとも僕が小学生の時 (30年位前...) は書きましたね.たぶん今もそういう点はそんなに変わってないと思います.日本語のいいところのひとつは,ひらがなさえ覚えれば,とりあえず小学1年生でも自分の言いたいことをなんとか書きとめることができることで,その点,単語ごとに綴りがどうの,という問題が出てくる欧米語などとは違うわけです.だから,小学校低学年の作文教育というのは,思ったこと,感じたことをとにかく文字にして書く,これで正しいのだと思います.
問題はその後です.たとえば中学,高校では作文の時間はほとんどないでしょう.最近は受験で小論文を課すところが多くなってきているので,少しはあるんでしょうかね.しかし,読者に何かを正確に説明して伝えるための作文訓練というのは,ほとんどなされていないと思います.

理工系の大学に進学した人には,国語とかが苦手で,という人もいるのでしょうが,理工系の人間こそ,作文能力は必要なのです.ただし,その作文は「文学」ではないところがポイントです.美しい文章かどうか,面白おかしく書けているかどうか,は,まったく重要ではなく,誰が読んでも誤解なく,簡潔で正確に内容が伝わる文章を書かなくてはならない,ということです.

紹介した本には,目的の設定,読者の想定,内容の吟味,用語の使用法,その他,理科系の作文に必要なさまざまな内容が,具体的に考察されており,どのように文章を組み立て,書いていくか,実に示唆に富んだ提言で満ちあふれています.すでに何回読んだかわからないくらい読み返しましたが,それでも毎回毎回新たに得るところがある (僕の進歩がないだけかも?),そんな本です.類書はいろいろありますが,第一に読むべきはこれ,と,自信を持って推薦できます.


(2003.2.4)
(2003.2.15)