チェックシート2


1. 25℃において 0.100 mol/L AgNO3 水溶液 100 mL と 0.100 mol/L NaCl 水溶液 50 mL とを混合したときに生成する AgCl の物質量を求めよ.溶液中の Cl- 濃度と Ag+ 濃度を求めよ.AgCl の Ksp = 1.8×10-10 mol2 dm-6 (25℃).混合に伴う体積変化は加成則が成り立つとしてよい.
2. 半径 1nm,10nm, 100nm, 1μm,1mm の球形粒子と平衡にある溶質の濃度は,無限平面と平衡にある溶質濃度を 1 とするとどの程度になるか計算せよ.この物質の分子量を 200,密度を 2.0 g cm-3,表面自由エネルギーは 100 mJ m-2 とし,温度は 300 K とする.気体定数 R = 8.314 J K-1 mol-1


解答とコメント
1.
Ag+ + Cl- = AgCl
であるから,Ag+ 1 mol と Cl- 1 mol が反応して AgCl 1 mol が生成する.混合前の溶液に含まれている Ag+ および Cl- の物質量 (いわゆるモル数.しかしこの用語は正しくない) を求めると,

Ag+ について: 0.100 mol/L × 100/1000 L = 0.0100 mol
Cl- について: 0.100 mol/L × 50/1000 L = 0.0050 mol

したがって,これらの混合から得られる AgCl の物質量の上限値は 0.0050 mol であることがわかる.実際には AgCl の溶解度があるためにこれより少ない量の AgCl しか沈殿してこないはずであるが,溶解度が十分小さいと考えその量は無視できるとすれば,生成する AgCl は 0.0050 mol である.
このとき溶液には未反応の Ag+ が残存することになる.その物質量は 0.0050 mol であり,混合溶液のの全体積は 0.100 + 0.050 = 0.150 L とみなせるので,Ag+ 濃度は

0.0050 mol / 0.150 L = 0.033 mol/L

と導ける.一方,Cl- 濃度は非常に小さいはずであるが,実際には 0 でない有限の値を持つはずである.AgCl の沈殿が存在している平衡系では Ksp = [Ag+][Cl-] が一定であるといえるので,Ksp = 1.8 × 10-10 mol2L-2 (25℃) を使えば,

[Cl-] = Ksp / [Ag+] = 5.4 × 10-9 mol/L

と求められる.
AgCl の溶解度を考慮した場合は以下のように考えればよいだろう.
溶解度があるのだから Cl- 濃度を考えることができるので,これを a とおく.すると,溶液中に残る Cl- の物質量は a × 0.150 (mol) である.この分だけ,沈殿してくる AgCl の物質量は減少することになる.また Ag+ 濃度は a と同じだけ,上の計算値より大きくならねばならない.ここで溶解度積を考えると,

Ksp = [Ag+][Cl-] = (0.0050/0.150 + a) × a = 1.8 × 10-10

この2次方程式を解くと (a < 0 の解は物理的に意味がないので却下される),a = 5.3999 × 10-9 が得られる.この値は,上で求めた Ag+ の濃度の近似解 0.033 に比べて十分に小さく,実質的にはこれを考慮してもしなくても [Ag+] の値に影響はない.また Cl- 濃度の値としても,上の計算結果と一致しており,結論的には,上の計算で十分に正確な値が得られていることになる.ただし生成する AgCl の物質量が少ない場合,溶解度の問題は無視できなくなる可能性があるので,その場合はこのような形で溶解度を考慮する必要が生じることに注意すること.

2.
溶解度の粒径依存性に対する Gibbs-Thomson 効果は次の式で表される (この書き方は講義中の板書の形式とは若干異なるが,まったく等価であるので,よく式の変数を吟味すること).

ln(Cr/C) = 2γVM / (rRT)

ここで Cr は半径 r の粒子に対する平衡溶質濃度,C は無限平面に対する平衡溶質濃度 (溶解度),γは表面自由エネルギー (正確にはこの固体/液体界面における界面自由エネルギー),VM はモル体積 (物質 1 mol の示す体積,すなわちモル質量/比重),r は粒子半径,R は気体定数,T は温度である.問題文中の「分子量」は,より適切な用語としては「モル質量」を使うべきであった. ここに与えられた条件を代入して計算していけばよいのだが,単位系を統一することに注意.,VM = 200/2.0 (cm3 mol-1) = 1.0×10-4 (m3 mol-1).したがって, ln(Cr/C) = (1/r) × 2× 100×10-3 × 1.0×10-4 / (8.314 ×300) = (1/r) × 8.02×10-9. したがって,
r = 1 mm = 1×10-3 m であれば,Cr/C = 1.00
r = 1 μm = 1×10-6 m であれば,Cr/C = 1.01
r = 1 nm = 1×10-9 m であれば,Cr/C = 3.04×103
同様に計算すると,0.1μm = 100 nm では 1.08,10 nm では 2.22 という数値が得られる.つまり,大雑把には1μm以下程度の微粒子系に Gibbs-Thomson 効果は表れることがわかる.ふつうの写真乳剤に使われるハロゲン化銀は大きくても μm 程度であるから,Gibbs-Thomson 効果は無視できないことがわかる.なお,1 nm では極端に大きな値になるが,そもそもこの大きさでは巨視的な熱力学をそのまま適用すること自体に問題があるので,あくまでも計算上の値ということに注意する.