反射・発光表示可能なデュアルモードディスプレイの研究

関連分野 - 電気化学,光化学,熱化学

反射型表示と発光型表示

 現在世の中で使われているディスプレイは、印刷物や電子ペーパー等、外部からの光を反射して表示する反射型ディスプレイと、テレビやパソコンモニター等、自ら光を発して表示する発光型ディスプレイの二つに分類できます。

 反射型ディスプレイは明所での視認性に優れており、表示メモリー効果による省エネルギー駆動が可能ですが、外部光の無い暗所では表示を見ることが出来ず使用環境が制限されます。

 一方発光型ディスプレイは暗所での視認性に優れています。しかし、太陽光などの強い光の下では表示が見づらく、また反射型表示と比べてエネルギー消費量が多いといった特徴があります。

 そこで本研究室では反射型表示と発光型表示の両方の機能を有し、暗所では発光型、明所では反射型と、状況に応じて表示方式を使い分けることでそれぞれのメリットを享受可能な、新規表示方式のデュアルモードディスプレイ(DMD, 図1)について研究を行っています。

図1 反射・発行表示可能なデュアルモードディスプレイ

 

 本研究室では次の3通りの機構によるDMDに関して研究を行なっています。

方式1:反射型表示にEC反応、発光型表示にECLを利用

方式2:反射型表示にEC反応、発光型表示にフォトルミネッセンス(PL)を利用

方式3:反射型表示にサーモクロミズム(TC)反応、発光型表示にPLを利用

 

方式1:電気化学的発色と電気化学発光を用いたDMD素子

本方式のDMDは発光、着色共に電気化学反応によって選択的に発現が可能です。

 素子構造は図2のような単一素子で、一方の電極上にエレクトロクロミック(EC)材料を修飾した着色層、もう一方の電極上に電気化学発光(ECL)材料を修飾した発光層を作製した構造です。

 この素子において、ECの着色による反射型表示は直流電圧駆動で制御できます(図2左)。直流電圧を印加すると、着色層ではEC材料の酸化体、又は還元体が生成され、ECによる着色が起こります。一方ECLは酸化体と還元体の衝突によって起こる発光現象なので、酸化体、還元体のどちらかしか生成されない直流電圧では発光は起こりません。従って、直流電圧印加により着色のみが起こり、素子は反射型表示になります。

 またECLの発光型表示については交流電圧駆動で発現可能です(図2右)。交流電圧を印加すると、発光層では酸化体と還元体が同時に生成されることで発光が起こります。着色層ではEC材料の酸化体または還元体が生成されてもニュートラルに戻る反応が高速で繰り返されるため視認できるほどの色変化は不可能となり、事実上着色が起こりません。その結果、交流電圧印加時には発光層での発光のみが起こり、ECLによる発光型表示を得られます。

 実際に作製したDMD素子のデュアルモード駆動を図2下に示しています。同一の素子において、直流電圧を印加した際には反射型表示になり(図2左下)、交流電圧を印加した際には発光型表示が得られます(図2右下)。

 実際の駆動の様子は当ホームページMOVIEコーナーにおいてもご覧になれます。

 

方式2:電気化学的発色と紫外光励起による発光を用いたDMD素子

 本方式のDMDは、「電気化学的発色(エレクトロクロミック:EC)反応による励起エネルギー移動コントロール」という概念を用いて発光・反射を制御しています。

 具体的には、素子の反射型表示を担う部位に電位印加により可逆的な画像形成が可能なEC分子を、発光型表示を担う部位には強発光性の分子を用い、これらの分子を同一材料内にて複合化させることで新規デュアルモードディスプレイ材料を構成しています。

 EC分子-発光分子の複合系において、EC分子未着色状態(反射表示OFF)においてEC分子のHOMO-LUMOバンド幅が発光分子の同バンド幅よりも大きな場合、発光分子の励起エネルギーはEC分子へ移動せず、発光分子からの発光が観測されます(発光表示ON)。また、EC分子着色状態(反射表示ON)においてEC分子のHOMO-LUMOバンド幅が発光材料のそれより小さくなる場合、発光材料からEC分子への励起エネルギー移動が起こり、発光分子からの発光が消光されます(発光表示OFF)。このように、EC反応によってEC分子のHOMO-LUMOバンド幅を変化させることで、EC分子自身の着色ON-OFF制御を行うと同時に、共存する発光分子からEC分子への励起エネルギーの流れを制御し、発光のON-OFF制御を可能としました(図3)。具体的にはEC材料にビオロゲン誘導体、発光材料に赤色強発光を示すEu(Ⅲ)錯体を用い、電解質溶液内で両分子を混合するだけの極めて単純な材料で、ビオロゲンの電気化学的発色・消色に伴うEu(Ⅲ)錯体の発光のON-OFF制御を実証しました。

 実際に7セグメント素子を作成し、ビオロゲンの還元電圧を印加することでECによる反射型表示が得られ、この素子に紫外光を照射することでビオロゲン着色部は発光せず、未着色部分では発光が得られる発光型表示が得られました(図4)。

このように本研究室では、明所および暗所での利用が可能なデュアルモードディスプレイを通して、新たな画像形成・表示素子を開拓しています。