生体由来高分子を利用した有機薄膜トランジスタメモリ
関連分野 - 生体高分子,電気化学,熱化学
有機薄膜トランジスタの現状
印刷法を用いた電子デバイスの作製技術は、ユビキタス社会における携帯情報端末機器に欠かせないキーテクノロジーの一つです。近年、駆動素子や表示素子などの分野では、印刷電子デバイスの実現が視野に入ってきました(図1)。
しかし、不揮発性メモリ素子に関しては、ユビキタス機器を構成する重要な要素でありながらプリンタブル・フレキシブルに向けた有効な技術が存在していませんでした。
電界効果トランジスタ(FET)メモリ素子のフレキシブル化は、情報不揮発性を担う強誘電性材料の有機化・フレキシブル化が必要となりますが、未だ素子化に適した有機強誘電性材料の開発には至っていません。ポリマーの強誘電性材料を用いた有機FETメモリに関しては、ポリフッ化ビニリデンを絶縁体層に用いた研究例が報告されていますが、強誘電性を発現させるための特殊な配向処理が必要でした。
図1 印刷法を用いたフレキシブルFETメモリ素子
生体由来高分子と有機薄膜トランジスタ
本研究室では生体由来の高分子であるポリペプチドが配向処理等の特別な処理を必要とせずに強誘電性を示すことを発見し、これを用いてFETメモリ素子を構築することに成功しました。
生体高分子として知られるポリペプチドはα-へリックス構造をとり、剛直な棒状分子とみなせます。棒状分子のポリペプチドは簡易な塗布工程で基板に製膜でき、分子軸が基板に平行に配列する膜が得られます。この分子軸の配列に加え、分子量や分子構造によりポリペプチド膜の結晶性を適切に制御することで同膜が強誘電性を示すことを見出しました。
更に、このポリペプチド膜を絶縁体層に用い、半導体層に有機半導体を用いた電界効果トランジスタ型素子(図2)を作製したところ、ドレイン電流-ゲート電圧特性は大きなヒステリシスを示し、メモリ性を示すことが分かりました。ドレイン電流のオン/オフ比も3桁以上にのぼり、良好なスイッチング特性を示しました (図3)。
また、ポリペプチドと同様にらせん構造を持つ生体高分子であるDNAを用いた複合材料においても、メモリ素子が作製できることを発見しており、生体由来の機能性高分子が示すメモリ特性の発現機構と素子特性向上について研究を行なっています。
図2 FET素子の構造
図3 OTFTメモリの伝達特性